
短編なのに繋がる感覚『逆ソクラテス』を読んでみて
伊坂幸太郎*1の『逆ソクラテス』は、何かを学ぶための本というより、読んでいる時間そのものが楽しめる短編集だと思います……って書くとそれっぽいですが、サクサクと読めるのは間違いないです。ただ、受け取り手によっていろいろな表情を見せてくれる作品なんじゃないかな、と思います。
中高生でも読めるやさしさがありつつ、大人が読むとふと立ち止まってしまう瞬間があります。その感覚のズレが、この本のおもしろさだろうなって思います。
読んでいるあいだ、どこか懐かしい気持ちと、少しの居心地の悪さが同時にありました。子どもの頃に感じていた理不尽さや、うまく言葉にできなかった違和感を、静かに思い出させてくれるような感覚です。そして「自分もそんな大人の一人かも?」とドキッとさせられる瞬間があるんです。
一話一話は短く、気負わず読めて、気がつけば読み終わっています。派手な展開があるわけではないのに、不思議と印象は残る。読み終えたあと、物語そのものというよりも、自分の中に残った感情をしばらく考えてしまいます。
それぞれの話は独立しているようで、どこか同じ世界の空気を共有しているように感じます。時間の流れも一直線ではなく、少し前後しながら語られているようで、読み終えたあとに全体を振り返ると、じんわりと繋がりが浮かび上がってくるのです。
伊坂幸太郎といえば、巧みな会話や伏線、テンポのよい展開が魅力の作家というイメージがあります。一方で、代表作の中にはテーマが重かったり、構成が入り組んでいたりして、「少し難しそう」と感じる人もいるかもしれません。
それでもエンターテインメント性を保ちながら、どこかに「正しさ」や「立場の違い」への問いかけてくる。そのバランス感覚が、多くの読者を惹きつける作家さんだなと思っています。
『逆ソクラテス』は、そんな伊坂幸太郎の作品の中では比較的やわらかく、読み進めやすい一冊です。派手さは控えめですが、会話のうまさや視点のずらし方など、“作者らしさ”(←あくまで私が思っている)はきちんと感じられます。伊坂幸太郎をまだ読んだことがない人にとっては、ここから少しずつハマっていくための、やさしい招待状のような作品かもしれません。
「面白かった」と一言で言い切るタイプの本ではありませんが、読み終えたあとに静かに感慨が残ります。大人の理不尽さのようなものを受け止めるという意味では、中学生くらいからでも楽しめると思いますし、文章のやさしさという点では小学校高学年でも問題なく読めそうです。
大人は、その時のライフステージによって見方のグラデーションを感じられるはず。ふとしたときに、もう一度手に取ってみるのも面白いかもしれません。そういった意味では、誰にとっても“ちょうどいい”一冊だと思います。
「強く優しい人に育って欲しい」(もちろん自分も含めて……遅くないはず)